本日もご覧いただきありがとうございます。今回のテーマは視床の機能について、基底核、小脳ネットワークによる運動制御についてお伝えしたいと思います。
臨床において視床や基底核、小脳に対し病変をもつ患者様に対し、脳画像や神経系について学ぶことでリハビリの治療プラン立案に繋げられればと思います。
★脳卒中の病態とリハビリの必要性
脳卒中を発症されると運動麻痺や感覚障害が起こり、多くの患者様が日常生活動作(ADL)に支援を必要とします。そのため、リハビリテーションによる機能回復の最大化が重要です。ADLの再獲得に向けて早期の介入と個別化されたリハビリプランが、回復の可能性を広げるための鍵となります¹⁾。
★画像診断の役割
脳画像は脳梗塞や脳出血における損傷部位や範囲の把握を可能にし、適切な治療戦略や現実的な目標設定を導きます。また、画像所見は予後予測にも役立ち、新規治療の効果判定にも使用されます¹⁾。特に拡散テンソル画像(DTI)を用いたTractographyは、皮質脊髄路などの白質路の損傷程度を可視化し、運動予後の予測に応用されます¹⁾。
★神経可塑性を考慮した介入
脳損傷後、残存ネットワークの再組織化や代償によって機能回復を図ります¹⁾。リハビリでは可塑性メカニズム(損傷周囲の再編成や他経路の活用)を促す集中的訓練が重要です。早期かつ集中的な訓練により、脳の回復能力を最大限に引き出すことができます。
視床の機能とリハビリの意義
- 視床の機能と各核の役割:視床は感覚入力の中継や意識・認知の調節に重要な中継核です。背内側核(視床内側背核)は前頭前野と連絡し、記憶・実行機能や情動調節に関与します。外側腹側核(視床腹外側核)は小脳や基底核からの入力を運動野へ中継し、運動調節に寄与します²⁾。
- 視床出血による症候:視床出血では反対側の体の深部感覚障害や巧緻運動障害が顕著となります(いわゆる純粋感覚性卒中)³⁾。感覚フィードバック低下により起立・歩行時の重心保持が困難となり、感覚性失調が生じることがあります⁴⁾。また、視床(特に内側核)の損傷は情動・動機づけの変化(意欲低下や易怒性など)を引き起こすことがあります³⁾。
- リハ介入のポイント:感覚麻痺や視野欠損に対しては代償機構を活用します。視覚によるフィードバックを積極的に利用することで動作の正確性を補います⁴⁾。また、感覚統合訓練では視覚や聴覚刺激を組み合わせて残存感覚を統合し、機能回復を図ります。
★基底核・小脳ネットワークと運動制御
- 基底核ループ:基底核は大脳皮質と視床を介して運動・認知・情動の各ループを形成します。運動ループでは運動企画・実行の滑らかさを調整し、認知ループでは実行機能に、情動ループでは動機づけや報酬学習に寄与します⁵⁾。
- 小脳-大脳ネットワーク:小脳は運動の微調整だけでなく、大脳との双方向ネットワークにより学習や認知機能にも関与します⁶⁾。
- 認知機能との関連(CCAS):小脳損傷により小脳性認知情動症候群(CCAS)が生じることがあります。これは遂行機能障害、空間認知障害、言語の流暢性低下、人格・情動変化を特徴とします⁷⁾。
🧠 視床の主要核とその機能
視床は感覚情報の中継点として重要な役割を果たします。
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外側腹側核(VPL):体性感覚(触覚、圧覚、痛覚、温度感覚)を中継し、一次体性感覚野へ投射します。
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背内側核(MD):前頭前野と連絡し、情動や認知機能に関与します。
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外側膝状体(LGN):視覚情報を中継し、一次視覚野へ投射します。
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内側膝状体(MGN):聴覚情報を中継し、一次聴覚野へ投射します。
視床の各核は、特定の感覚情報を処理し、大脳皮質の対応する領域へ伝達します。
⚙️ 大脳基底核ループの構造と機能
大脳基底核は、運動制御や認知、情動に関与する複数のループを形成しています。
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運動ループ:運動の開始と調整に関与し、一次運動野と連携します。
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認知ループ:実行機能や意思決定に関与し、前頭前野と連携します。
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情動ループ:動機づけや報酬学習に関与し、辺縁系と連携します。
これらのループは、皮質-基底核-視床-皮質の回路を形成し、情報の処理とフィードバックを行います。
🧩 小脳と大脳皮質のネットワーク
小脳は運動の微調整だけでなく、認知機能や情動にも関与しています。
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運動制御:小脳は運動のタイミングや精度を調整し、運動学習を促進します。
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認知機能:小脳は前頭前野と連携し、注意、計画、言語などの高次機能に関与します。
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情動調節:小脳は辺縁系と連携し、情動の制御や社会的行動に関与します。
小脳と大脳皮質の双方向のネットワークは、運動だけでなく、認知や情動の統合にも重要です。
🧭 視床出血後のリハビリテーション戦略
視床出血により生じる症状に対して、段階的なリハビリテーションが効果的です。
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急性期(〜2週):
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視覚フィードバックを活用したバランストレーニング
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座位・立位での重心保持練習
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回復期(3〜6週):
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感覚統合訓練(視覚・聴覚刺激の組み合わせ)
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リズミックトレーニングによる運動学習促進
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維持期(7週〜):
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日常生活動作(ADL)への応用訓練
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モチベーション維持のための心理的サポート
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各段階での目標設定と適切な介入が、機能回復を促進します。
📝 おわりに
視床、基底核、小脳といった深部脳構造は、運動や感覚だけでなく、認知や情動機能とも密接に関連しており、リハビリテーションにおける重要なターゲットです。これらの構造が損傷を受けた際には、単なる筋力訓練や歩行訓練だけでは不十分であり、脳画像所見を活かした個別性の高い介入が求められます。
患者さん一人ひとりの症状の背景には「どの神経核が、どのネットワークの中で、どう機能障害を起こしているのか」という視点が必要です。構造と機能の理解を深めることは、治療戦略の精度を高め、回復の可能性を最大化する第一歩です。
本記事が、皆様の臨床における「考えるリハビリ」の一助となれば幸いです。
本日は以上となります。最後までご覧いただきありがとうございました。
参考文献
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Imaging for Prediction of Functional Outcome and Assessment of Recovery in Ischemic Stroke - PMC.
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Thalamic stroke: Symptoms, causes, treatment, and outlook.
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Sensory ataxic hemiparesis in thalamic hemorrhage - PubMed.
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Functional Neuroanatomy for Posture and Gait Control.
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Basal ganglia - Wikipedia.
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Cerebellar cognitive affective syndrome - Wikipedia