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感覚統合から考える運動リハビリテーション―「感覚の再重みづけ」と「感覚入力への介入」を臨床でどう活かす?

◆ はじめに

 本日もご覧いただきありがとうございます。今回のテーマはリハビリテーションにおける【感覚】についてです。

脳卒中片麻痺患者様においては脳の損傷により感覚障害を呈するケースが少なくないかと思います。

 そこで、セラピストとして感覚とは何かを再認識できればと思います。少しでも明日からの臨床に活かせればと思います。

 

 



動きは“感覚”から始まる

 ヒトの運動は中枢神経系からの指令で始まりますが、その実行と修正には感覚の役割が不可欠です。姿勢制御や歩行は、視覚・前庭・体性感覚といった多感覚の統合によって成り立っているのです。

 

 

◆ 感覚統合の三本柱

感覚統合において中心となるのは以下の3つの感覚です:

感覚 主な役割
視覚 空間定位、垂直方向の把握
前庭感覚 頭部加速度、重力方向の把握
体性感覚 支持面との関係、関節位置・運動感覚

これらの情報はCNS(中枢神経系)で統合され、バランス戦略や運動パターンに反映されます。

 

 

◆ 感覚は「再重みづけ」されるシステム

運動学習やリハビリにおいて重要なのが「感覚の再重みづけ(sensory reweighting)」です。

再重みづけとは?

感覚の信頼性が低くなったとき、他の感覚に依存度をシフトする中枢の適応機構。
例)暗所での視覚依存→体性感覚や前庭感覚へのシフト

この再重みづけは、スポーツや加齢、疾病、リハビリ介入など様々な要因で起こります。

 

 

◆ 感覚障害が運動制御に与える影響

体性感覚の障害があると、以下のような運動制御異常が起こります:

  • ロンベルグ徴候陽性:閉眼時にバランスが著しく不安定
  • 先天性無痛症:深部感覚の欠如により運動はぎこちなく、Charcot関節などを発症
  • ACL損傷後:固有受容器の減少により関節覚が低下

このように、感覚の欠如や歪みは運動の質を根底から変えてしまうのです。

 

 

リハビリテーションにおける「感覚への介入」

感覚入力を意図的に操作することで、運動学習を促すことができます。これは閉回路制御(feedback loop)の原理に基づきます。

閉回路制御モデルの構造:

  • 運動出力 → 感覚フィードバック → CNSでの誤差修正 → 再出力

この循環をうまく活かせば、fast dynamics(即時変化)→ slow dynamics(長期変化)への移行が促され、機能改善が期待されます。

◆ 実践:再重みづけを引き出すエクササイズ

●バランスボードエクササイズ

  • 不安定な支持面での立位保持
  • 視覚入力への依存が強化される
    → 足関節捻挫の予防・トレーニングに有効

●Gボールエクササイズ

  • 座位保持で下肢体性感覚を遮断
  • 前庭感覚への重みづけを高める

 

 

◆ 応用:年齢や病態ごとの感覚戦略の違い

対象 特徴
小児 10歳未満は視覚優位、再重みづけは未成熟
高齢者 視覚依存が強く、再重みづけに時間がかかる
スポーツ選手 種目特性に応じて感覚の使い分けが最適化される

 

 

◆ まとめ:感覚に介入することで、動きを変える

  • 運動は出力だけでなく入力=感覚から見直す
  • 感覚の再重みづけは中枢の可塑性を活かす鍵
  • リハビリでは、どの感覚を引き出したいかを明確にする

 

本日はここまでとなります。最後まで見ていただきありがとうございました。

 

参考文献板谷厚(2015)「感覚と姿勢制御のフィードバックシステム」バイオメカニズム学会誌,39巻4号,197-203ページ

芳賀信彦(2017)「感覚入力への介入による運動リハビリテーション」計測と制御 第56巻第3号, 199-203頁