本日もご覧いただきありがとうございます。今回のテーマは『痙性』に対するリハビリテーションについてです。
脳卒中をはじめとする中枢神経系の障害では、「痙性(spasticity)」という症状がみられることがあります。これは、筋肉がつっぱるように硬くなり、動かしづらくなる状態を指します。
痙性は、回復の一過程として現れることもあれば、適切に対応しないと関節の拘縮や日常生活動作(ADL)の妨げになることもあります。この記事では、痙性の正体、なぜ起こるのか、どう対応すべきかについて、医療従事者とご本人・ご家族に向けてわかりやすく解説します。
★痙性とは何か?
痙性とは、上位運動ニューロン障害(脳や脊髄の病気)により現れる「速度依存性の筋緊張亢進」を意味します
具体的には、
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筋肉を急に伸ばしたときに抵抗が強くなる
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ゆっくり伸ばすとそこまでではない
といった特徴があります。この現象は「折りたたみナイフ現象(clasp-knife phenomenon)」と呼ばれ、臨床でも重要なサインとされています。
★なぜ痙性が起こるのか?
神経レベルでの原因
痙性は「伸張反射の過敏化」によって生じます。筋肉が急に引き伸ばされると、筋紡錘というセンサーがそれを感知し、反射的に筋を収縮させます。この仕組み自体は正常なものですが脳卒中などで中枢の抑制系が壊れると、過剰に反応するようになります。
急性期の対応が鍵
脳卒中発症直後には痙性はまだ出現していません。しかし、「動かさずに放置すること(immobilization)」によって、筋の短縮や筋紡錘の過敏化が進み、痙性を引き起こすことがわかっています。早期からの適切なポジショニングや他動運動が、痙性の予防には極めて重要です。
★理学療法士・作業療法士が知っておきたい評価と対応
評価のポイント
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静止時・動作時・他動運動時など、複数の状況で筋緊張を確認する
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Modified Ashworth Scaleや姿勢反射機構検査などを併用して総合的に判断する
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神経原性因子と非神経原性因子(例:筋の短縮、誤った代償動作)を分けて考える
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痙縮筋に対しては抑制、弛緩筋には促通
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反射的な過緊張だけでなく、姿勢・環境の調整にも目を向ける
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連合反応や不適切な代償動作を最小限に抑えるため、全身的・協調的な視点が必要
患者様・ご家族に伝えたいこと
痙性は「努力している証」
「筋肉が勝手に動く」「動かそうとしていないのに突っ張ってしまう」といった症状は、決して異常なことではありません。これは体が再び動こうとしている過程で起こることもあります。焦らず、無理せず、セラピストと一緒に取り組むことが大切です。
日常生活でもできること
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寝る姿勢や座る姿勢を工夫し、筋や関節が偏らないように保つ
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寒さや疲労が筋緊張を高めることがあるため、体を冷やさず、無理のない生活を意識する
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家族や介助者も、急激な動きではなく、ゆっくり関節を動かす
おわりに
痙性は脳卒中後の回復期において、ご本人・家族・セラピストすべてにとって課題となりやすい症状です。ですが、早期からの理解と対応によって、進行を防ぎ、生活の質(QOL)を高めることができます。
本日も最後までご覧いただきありがとうございました。
参考文献;後藤淳著『筋緊張コントロール』(2003年)
吉元洋著『痙性に対する理学療法』(1988年)