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今回も臨床において重要な感覚についてをテーマにしていきます。
◆ なぜ“感覚”へのアプローチが重要なのか?
ヒトの運動や行為は、感覚と運動のループによって成り立っています。
つまり、「動くために感じ」、「感じるために動く」――これは知覚と行為の循環理論(Gibson, 1986)に基づいた考え方です。
しかし、脳卒中や脳性麻痺などの中枢神経疾患では、半数以上に感覚障害がみられ、動作の獲得や学習を著しく阻害します。
特に上肢においては、感覚障害が運動障害よりも活動制限に直結するケースも少なくありません。
◆ 感覚障害の影響は?
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不正確な感覚フィードバック → 異常な運動モデル学習
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触覚・位置覚の欠如 → 道具操作や物体識別が困難
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麻痺手の学習性不使用(Learned non-use)
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子どもの発達的無視(Developmental disregard)
これらにより、「使えない手」ではなく「使わなくなる手」となる危険性があるのです。
◆ 感覚と運動は“相互作用”するもの
感覚は運動のために必要なだけでなく、運動そのものが感覚を育てることも明らかになっています。
🔍【研究例】
2〜3ヶ月の乳児にミトンを装着し、能動的におもちゃに触れさせた群は、他動的な群より物体探索能力が向上(Libertus, 2010)
➡️ 臨床でも「受動的な刺激」より「能動的な探索」を意識した介入が重要となります。
◆ 実践例①:脳卒中患者への能動的感覚訓練(De Diegoら, 2013)
慢性期の片麻痺患者に対し、
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筋緊張調整(10分)
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能動的な物体探索(20分)
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ADLに直結する動作練習(30分)
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家庭での自主訓練(毎日30分)
┗ 触覚刺激/イメージ訓練/ADL反復
✅ 結果:感覚弁別・Fugl-Meyer評価ともに有意な改善
📌 物品の例:異なる大きさ・重さ・素材のスポンジや容器など
◆ 実践例②:脳性麻痺へのアプローチ(Kuoら, 2016)
6〜18歳の片麻痺児に対し、
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集中的な両手活動+感覚訓練の比較研究
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結果:両群とも触覚機能が改善したが、感覚トレーニングの有無で有意差はなし
👶【考察】
◆ 感覚訓練の実践ポイントまとめ
ポイント | 内容 |
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🔸能動的探索 | 自ら手を動かして探索させる体験を重視 |
🔸触覚+運動の統合 | 感覚刺激+実生活に即したADL動作練習 |
🔸段階的な課題設定 | 大きさ・重さ・形状・材質の違いを意識的に |
🔸家庭での介入 | 歯ブラシ刺激、イメージ訓練、ADL練習の併用 |
◆ 臨床で活かすには?
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単なる“感覚刺激”ではなく、「どう感じて、それをどう使うか」に着目
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触れる → 動かす → 使ってみる という一連の流れを設計
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介入の目標は「使える感覚」ではなく、「使いたくなる身体」
◆ まとめ
最後までご覧いただいありがとうございました。
参考文献;稲富惇一・桂雅俊・萩原賢二・箭野豊・畑田早苗・片岡聡子(2021)「感覚障害へのリハビリテーション」『高知県作業療法』第1巻、37-42頁