【脳機能シリーズ】
高次脳機能障害を読み解く
〜感情・行動・空間認知の障害をどう理解するか〜
はじめに
脳卒中後のリハビリでは、運動麻痺だけでなく、行動・感情・空間認知の変化への理解が不可欠です。これらは前頭葉や頭頂葉の損傷によって引き起こされる「高次脳機能障害」によるものであり、皮質構造と機能の知識が評価と介入の軸になります。
1. 前頭葉:行動と感情の制御中枢
● 前頭前野(9・46野など)
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認知・記憶・判断・遂行機能に関与
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ワーキングメモリ・注意・抑制制御の中枢
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障害時:注意の持続困難、判断力低下、易怒性、感情コントロール障害など
● 眼窩前頭前野(11・47野)
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行動の抑制・感情の調整に深く関与
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抑制力の低下による衝動的行動や不適切な発言などが出現
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自己認知の低下、共感力の欠如なども含む
● 内側面(24・32・23野など)
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意欲・感情の統合、内的動機に関与
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無関心・無感動・無発語(自発性の低下)が出現することも
2. 頭頂葉:空間処理と感覚の統合中枢
頭頂葉の機能としては、空間内での物体、自己身体や部位について位置、運動の情報を処理すること。
● 体性感覚野(3,1,2野)
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触覚・深部感覚の処理、姿勢や動作の身体イメージ形成に重要
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障害時:視空間失認・半側空間無視・身体失認
● 下頭頂小葉(39・40野)
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視覚・聴覚・体性感覚を統合し、空間把握を行う
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「どこにあるか?」という空間定位(where経路)に関与
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障害時:構成障害・失読・視覚性失認、Ataxie optique など
3. 臨床への応用:評価・介入のポイント
症状 | 想定される障害部位 | 評価・観察の視点 |
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衝動的な行動・怒りっぽさ | 眼窩前頭前野 | 他者との関わり、会話の様子に注意 |
注意散漫・遂行機能低下 | 背外側前頭前野 | 作業の段取り、二重課題の反応 |
無感動・意欲低下 | 内側面(帯状回) | 自発的発語や行動の頻度 |
空間失認・身体図式の錯誤 | 頭頂葉下部 | 誤った手の位置感覚、構成課題 |
Ataxie optique(視覚失調) | 頭頂葉〜後頭葉連結部 | 見えているのに触れない・掴めない様子 |
まとめ
前頭葉は「なにをどうするか」を決める司令塔、頭頂葉は「今どこにあるか」を認識する地図作成の中枢です。
それぞれの機能と障害像をつなげて理解することで、行動の背景にある脳の働きを読み解く力が養われます。
本日はここまでとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。