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関節可動域制限のメカニズムと臨床的介入戦略 ― 膝関節・肩関節・拘縮肩について ―

 

 

 本日もご覧いただきありがとうございました。本日のテーマは関節可動域制限のメカニズムと臨床における介入戦略についてです。

 

 

1.膝関節における屈曲制限の構造的要因と治療戦略

 膝関節の可動域制限(特に屈曲制限)は、支持組織の線維化・癒着、関節内滑走性の低下など、複数の要因が絡み合って発生します。特に術後・長期不動例では、以下の3要素を押さえることが臨床では重要です。

① 膝蓋骨上方支持組織の癒着(膝蓋上嚢)

  • 問題点:膝屈曲時に膝蓋骨が大腿骨遠位に滑走できず、可動域が制限される。

  • 治療戦略

    • 膝蓋骨モビライゼーション(近位・遠位方向への滑走回復)

    • 軽度屈曲位での膝蓋上嚢ストレッチ

    • 超音波や温熱療法による組織柔軟化の補助

② 関節内の滑膜線維化・関節包の癒着

  • 問題点:関節包内の遊び(Joint Play)が失われ、軟部組織の滑走障害が生じる。

  • 治療戦略

    • 関節モビライゼーション(特に内外側・回旋方向)

    • 炎症の早期管理と滑走運動の導入

    • 静的保持+荷重刺激の併用

③ 膝蓋骨下方の支持組織(膝蓋靭帯・脂肪体)の拘縮

  • 問題点:屈曲後半に滑走が阻害され、疼痛や運動制限を招く。

  • 治療戦略

    • 膝蓋下脂肪体の軟部組織リリース(徒手療法+超音波)

    • エコー下での可動性評価と滑走訓練

    • モビライゼーションと併せた筋膜スライドテクニック

 

 

 

2.肩関節における滑液包性拘縮とその対応

 肩関節は構造的に滑液包の多い関節であり、滑走性が可動性を左右します。特に滑液包の癒着は関節機能障害を顕著に引き起こすため、構造ごとの評価と治療が必要です。

主な滑液包と臨床的ポイント

滑液包 解剖的位置 臨床的意義
三角筋下滑液包    三角筋と上腕骨頭間    上腕挙上時の滑走補助
肩峰下滑液包 棘上筋と肩峰の間 癒着で屈曲・外転制限を助長
肩甲下滑液包 肩甲下筋と胸郭間 肩前方の滑走性維持
烏口下滑液包 烏口突起と周囲組織 烏口上腕靭帯・小胸筋滑走補助   

 

滑液包由来の制限に対する治療戦略

  • 外旋位+伸展・内転方向へ操作
    → 滑液包の伸張と癒着剥離を狙う

  • 肩甲骨の固定を徹底
    → 体幹代償(肩甲骨内転・下制)を防ぎ、正確な上腕誘導が可能に

  • 関節面垂直方向への牽引(traction)
    → 関節内圧低下と滑走改善を促進


3.拘縮肩における靭帯・関節包の癒着と対応

 凍結肩(frozen shoulder)や術後拘縮では、靭帯・関節包の線維化による滑走不全が可動域制限の主因となります。以下の構造が特に影響します。

 

組織 解剖学的位置 臨床機能 治療戦略
烏口上腕靭帯 烏口突起〜結節間溝 肩前方の安定化 伸展位での内外旋操作による滑走性回復
腱板疎部(RI) 棘上筋と肩甲下筋間 上方制動機構 関節包の弾性改善と滑走訓練
下関節上腕靭帯(IGHL) 関節前下方部 外転・外旋制限因子 滑車による持続的伸張訓練が効果的
 

4.アセスメントの視点:可動性 vs 滑走性

  • Joint Centration(関節中心化)
     → 肩甲骨に対する上腕骨の位置把握が運動方向の正確性を保証

  • Scapular Position(体幹に対する肩甲骨位置)
     → 上肢機能だけでなく、胸郭運動との協調が評価・再教育の対象に


 

🔹 拘縮肩に対する解剖学的要因と治療戦略

◆ 拘縮肩で短縮・癒着しやすい構造

組織 解剖的位置 機能 治療戦略
烏口上腕靭帯 烏口突起〜小結節〜大結節 肩前方の安定性 肩関節伸展位での内外旋運動で滑走性回復
腱板疎部(rotator interval) 棘上筋と肩甲下筋の間 前上方安定化 関節包の柔軟性確保が必須
下関節上腕靭帯(IGHL)含む関節包 関節前下方部 外転・外旋制限に関与 滑車などを用いた持続的伸張が有効

 

🔹 アセスメントの視点

  • 肩甲骨に対する上腕骨頭の位置関係を常に評価(Joint Centration)

  • 体幹に対する肩甲骨の位置も観察

    → 固有関節位置感覚・運動学的協調性の欠如が原因になることも

 

✅滑走性障害をどう捉え、どう動かすか

関節 主な障害部位 治療の核心
膝関節      膝蓋上嚢・関節包・脂肪体 可動性+滑走性の回復
肩関節 滑液包(肩峰下中心) 外旋+伸展内転操作、牽引+固定
拘縮肩 烏口上腕靭帯、腱板疎部、IGHL 滑走性アプローチと持続伸張の併用

 

 

 このように、「滑走性」への理解と操作技術は、徒手療法の質を大きく左右します。機能解剖の再確認と、関節構成体の動態把握をベースに、過不足ない愛護的アプローチを展開することが、制限改善への近道となります。

 

✅臨床の視点から

  • 滑液包の癒着は、滑走性低下+疼痛+可動域制限が出現
  • 肩甲骨を固定した上での外旋位+伸展・内転誘導が治療の鍵
  • 拘縮肩では靭帯や関節包の線維化・癒着を段階的に解放
  • モビライゼーションに加え、ポジショニング・PNF・滑車練習など多角的アプローチが有効

 

 

本日はここまでとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。