本日もご覧いただきありがとうございます。本日のテーマは歩行における速度について考えていきます。
歩きの速さは、単なる歩行能力だけでなく、歩行速度が低下するほど転倒リスクが高まるとされています。
さらに、神経疾患患者や高齢者でも、歩くペースの低下が転倒予兆とされています。
今回は、歩行速度と転倒リスクの最新エビデンスについての内容となります。
ぜひ臨床に活かしていただきたいです。
🧠 歩行速度と転倒の関連性:主なエビデンス
1. 脳卒中後の高い転リスク
脳卒中から1年以内の転倒発生率は70%に上るとの報告があり、その主要因として歩行障害が挙げられています 。
2. 歩行速度と転倒との直接的関連
「歩行速度 ≤ 1.0 m/s」は、転倒リスク上昇と一貫して関連しており、特に神経疾患患者(パーキンソン病・ハンチントン病・脳卒中)ではこの傾向が顕著となります。
3. コミュニティ高齢者での検証
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通常歩行速度の低下(年‑0.10 m/s)は、6ヵ月後の転倒リスクをHR 1.13(単回転倒)、HR 1.44(複数回転倒)へと引き上げると報告されました 。
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1 m/s以下は複数回転倒歴との強い関連(OR 3.7:95%CI 1.18–11.65)も示されました 。
4. メタレビューによる総合評価
複数のレビューでは「歩行速度は転倒予測に有用だが、単独では十分でない」と指摘されています。
ただし、多くの研究で転倒予測に有意性が観察されています。
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デュアルタスク歩行速度(例:歩きながら計算)は単一タスクと同等の予測力を持つ可能性があるとされています 。
✅ 要点まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 転倒率 | 脳卒中患者では術後1年で約70%が1度は転倒 |
| 速度カットオフ | ≤ 1.0 m/sで転倒リスク増加(多くの神経疾患含む) |
| 速度変化による予測 | −0.1 m/s/年の低下でHR 1.13–1.44と転倒リスク増 |
| エビデンス総評価 | 歩行速度は転倒予測に“有用”だが、多面的評価が望ましい |
🔑 臨床的含意
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脳卒中患者では「歩行速度測定」が転倒リスク評価の重要なツール
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単なる「速度が遅い」ではなく、速度の変化にも注目
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転倒リスク管理には、歩行速度+バランス・筋力・認知などのマルチアセスメントが推奨される
🚶♂️ カットオフ値の意味
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≤ 0.4 m/s:家庭内歩行者(Household Ambulator)
自宅内での移動は可能でも、屋外での歩行には限界があり、通院・買い物などの屋外移動は難しいとされます 。 -
0.4–0.8 m/s:限定的地域歩行者(Limited Community Ambulator)
屋外の移動はある程度可能だが、歩行速度が遅いため負荷や不安定さがあります。例えば、交通の流れや信号待ちに対応するのが難しいケースが多いです 。 -
≥ 0.8 m/s:地域を活動範囲とした歩行者(Community Ambulator)
屋外移動に十分な快適なスピードがあり、通院や買い物など実生活での歩行に支障が少ないレベルとされます 。
🔍 根拠となる研究
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Perry et al.(1995)は、FAC分類に基づき、0.4 m/s以下は家庭内、0.4–0.8 m/sは限定的地域、0.8 m/s以上は地域歩行者と定義しています 。
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臨床試験(LEAPS)では、これらの速度閾値が機能回復の予測および生活の質と強く関連することが示されています 。
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Suzuki et al.らのレビューでは、0.8 m/s以上が地域での完全な歩行を可能にする明確な目安とされています 。
✅ まとめ
| 歩行速度 | 分類 | 臨床意義 |
|---|---|---|
| ≤ 0.4 m/s | 家庭内歩行者 | 自宅内の移動のみ可能 屋外歩行は難しい |
| 0.4–0.8 m/s | 限定的地域歩行者 | 屋外歩行に挑戦可だが、遅く不安定 |
| ≥ 0.8 m/s | 地域歩行者 | 屋外で安定・快適に歩行できる状態 |
✅ 結論:
歩行速度が0.4 m/s以下の場合は、屋外で歩行による移動は現実的に困難です。地域社会での移動を目指すなら、最低でも0.8 m/s以上を目安にリハビリや支援計画を立てることが重要です。
本日の内容はここまでとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。
🧠 脳卒中後1年の転倒率約70%
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Stubbs et al. (2019):「Falls are one of the most common complications after stroke, … incidence ranging … 73% in the first year post」
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ESO Strokeガイド/AHAガイド:「up to 73% have fallen one year after a stroke」
🚶♀️ 歩行速度 < 1.0 m/s と転倒リスク増
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Change in gait speed and fall risk… (2023):「A gait speed threshold of 1.0 m/s is generally accepted … marker for increased fall risk」
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Frontiers in Neurology (2024):「gait speed under 1.0 m/s correlated with having a higher risk for falls … stroke」
📉 歩行速度遅下および早歩き(fast)と転倒
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MOBILIZE Boston Study (2011):「slower (<0.6 m/s) IRR 2.17 for indoor falls; faster (≥1.3 m/s) IRR 2.12 for outdoor falls; decline >0.15 m/s predicted fall risk IRR 1.86」
🎯 脳卒中特有の転倒リスク・予測
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Persson et al. (2011, J Rehabil Med):「almost every second patient … fell within the first year … inability to perform 10MWT had OR ≈ 6.06 for falling」
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Stroke and Falls—Clash… (PMC 2019)「up to 37% of all stroke survivors reporting at least one fall in the preceding six months; twice as likely for recurrent falls compared with non-stroke controls」