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【臨床で活かす】肩甲骨の安定性と評価・介入の進め方②

 

 

はじめに|肩の治療で“肩甲骨”をどう扱っていますか?

肩関節の患者さんを担当するなかで、
「可動域や筋力は回復しているのに、なんとなく違和感が残る」
そんなケースに出会ったことはありませんか?

 私自身、臨床経験を重ねるほどに実感しているのが、肩甲骨の重要性です。

本記事では、私たち理学療法士が現場で見落としやすい肩甲骨の評価ポイントと、段階的な介入方法について整理しています。
明日からの臨床で“すぐに使える”視点として参考になれば幸いです。

 

よくある肩甲骨の異常パターン

 臨床で見かける肩甲骨の代表的な異常パターンを3つに整理します。
これらは視診や動作観察で見つけやすく、評価の入り口になります。

パターン 主な原因筋
内側縁が浮く(翼状肩甲) 前鋸筋(長胸神経)
挙上終盤で肩甲骨が過剰に動く    下部僧帽筋・菱形筋
上方回旋が不足 僧帽筋下部・前鋸筋、胸椎可動性低下   

 

 このような異常パターンがあると、肩関節の動作効率が低下し、インピンジメントや肩痛の原因となります。

 

 

肩甲骨がうまく働かないと、なにが起きるか?

 肩甲骨は、肩関節運動の土台となります。180°の挙上動作のうち、60°は肩甲骨の上方回旋・後傾・外旋によって生み出されます。この協調運動を肩甲上腕リズムと呼びます。

このリズムが崩れると、

  • 肩峰と上腕骨頭の衝突(インピンジメント)
  • 上腕骨頭の前上方移動
  • 腱板や長頭腱へのストレス集中
  • 頚部・体幹の代償運動

といった二次的な問題を引き起こします。

実際、腱板損傷の約7割、肩関節不安定症で肩甲骨の運動異常が確認されたという報告もあります。

 

肩甲骨の評価

評価の基本は、「視診」「触診」「動的評価」の3つです。

1. 視診:(静的観察)

  • 両肩甲骨の高さ、左右差、角度の違い
  • 内側縁や下角の浮き(=翼状)
  • 猫背や肩甲骨の過度な外転・挙上

静止姿勢だけでなく、肩関節を30〜60°挙上させたときの動き出しもチェックしておくと、初期の異常に気づきやすくなります。

2. 触診:(動的な滑走感の確認)

  • 肩甲骨内側縁を把持し、肩の自動挙上時の滑走感を確認
  • 引っかかり、滑りの悪さ、過剰な動きがないか?
  • 僧帽筋、菱形筋、前鋸筋の硬さや圧痛、左右差

触診では、「滑っているのか?浮いているのか?」「筋の支えがあるのか?」を感じ取るようにしましょう。

3. 動的評価:動作中の反応を見る

  • SAT(Scapular Assistance Test)
     → 肩甲骨を誘導しながら挙上。痛みや可動域が改善すれば陽性
  • 肩甲骨リトラクションテスト
     → 肩甲骨を内転位に保持し、筋力テストで反応を見る
  • 壁プッシュアップテスト
     → 前鋸筋機能不全があれば、数回で翼状が出現

 

これらの評価を通して、「肩甲骨が症状にどれだけ関与しているか?」を見極めることがポイントです。

 

介入の組み立て方

評価で肩甲骨機能不全が明らかになったら、次は“正しい動き”の再教育と筋機能の再構築が介入の柱になります。肩甲骨の安定化アプローチは、段階的に進めるのが基本です。

 

初期:動作認識と姿勢修正

  • 肩甲骨時計運動(壁+ボール)
  • 鏡フィードバックによる内転・下制運動
  • 胸椎の伸展運動や小胸筋ストレッチ

 

この段階は、「動かし方を学習し直す」フェーズです。

 

中期:筋力と協調性の強化

  • プッシュアッププラス(前鋸筋)
  • Y字・T字エクササイズ(僧帽筋下部・菱形筋)
  • セラバンドでのローイング(可動域とフォーム重視)

ターゲット筋の活動を意識しつつ、“複数筋で協調して動く感覚”を養います。

 

後期:動作への統合と再発予防

  • ローテーションリーチ(体幹・股関節との連動)
  • 投球動作、荷物を持ち上げる、引く、などの模倣動作
  • エラー動作のフィードバックと反復学習

患者のゴール(ADL/スポーツ復帰など)に応じて、動きのなかで安定性を再現できるかを目指します。

 

介入例|肩峰下インピンジメントの場合

フェーズ 目的 介入例
評価     原因の可視化 SAT、MMT、動作観察
初期 認識と姿勢修正 鏡フィードバック、肩甲骨時計運動
中期 筋機能向上 プッシュアップ+、Y/Tエクササイズ  
後期 実生活動作への統合   投球動作、日常動作再現課題

 

評価結果と照らし合わせながら反応を見てプログラムを微調整していくことが重要です。

 

臨床研究でも注目される「肩甲骨アプローチ」

 近年の系統的レビューやメタアナリシスでも、以下のような報告が増えています。

  • サブアクロミアルインピンジメントに対し、肩甲骨安定化エクササイズを加えた方が疼痛と機能が有意に改善
  • ローテーターカフ損傷の保存療法で、肩甲骨トレーニングがリハビリ効果を高める
  • 前方頭位姿勢の改善や頚部痛の軽減にも姿勢制御の一環として有効

つまり、肩甲骨アプローチは実感だけでなくエビデンスに裏付けられた技術ということです。

 

おわりに|“肩甲骨を見る目”が介入の質を変える

肩甲骨の評価と安定性改善は、「筋を鍛えること」以上に「動きを再構成すること」が重要です。筋力だけでなく、運動の質=動きのコントロールを見抜き、肩甲骨のような“見えにくい要因”にアプローチできる強みがあります。

 評価→動きの再教育→動作への統合

この流れを丁寧に積み上げていくことで、確かな成果が得られると考えます。

 

本日の内容はここまでとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。

 

 

Sources:

  1. Kibler WB, et al. Role of the Scapula in Shoulder Function. J Athl Train. 

  2. 藤澤宏幸. 肩関節の身体運動学と運動療法. 理学療法の歩み (2010)

  3. Ravichandran H, et al. Scapular stabilization exercise in impingement: a systematic review. J Exerc Rehabil. 2020

  4. 日本離床学会・運動器最新エビデンス「肩甲骨というトリムタブ」(2024)

  5. Scapular Assistance Test – Physiopedia

  6. Kibler WB, et al. Management of Scapular Dyskinesis in Overhead Athletes. Clin Sports Med. 2021