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【臨床現場で知っておきたい!2025年版 心不全診療ガイドラインのポイントと運動療法の実践】

 

 心不全患者の運動療法はかつて「安静第一」とされることが多かった時代もありました。しかし現在は「安定期だからこそ安全に、そして効果的に行うべき」ものへと大きく変化しています。
 2025年3月に改訂された心不全診療ガイドラインでは、最新の知見を踏まえて運動療法の位置づけがさらに明確化されました。

 この記事では、ガイドラインの新たな5つのポイントを整理し、日常臨床でどう活かすかをお伝えします。

 

ガイドライン改訂の5つのポイント

  1. 名称の変更:「急性・慢性」の区分廃止
     診療を一貫して扱う形に。急性期から退院後まで連続性を意識した構成に

  2. HFimpEF(改善した駆出率の心不全)の追加
     駆出率が改善しても再悪化のリスクは高く、治療やフォロー継続が必要であると明記

  3. ステージA/Bでの予防介入強化
     症状が出る前のリスク段階から介入することの重要性が強調→糖尿病・高血圧・腎障害などを抱える患者への早期対応が求められる

  4. 評価アルゴリズムの体系化
     CPX、6分間歩行、SPPB、Borgスケールなどを組み合わせて、運動耐容能や身体機能を定量的に評価する流れが示される

  5. 有酸素運動エビデンス強化
     特にHFpEF患者における中等度有酸素運動の有効性が再確認

 

運動療法の目的

  • 心機能を直接改善することよりも、運動耐容能とQOLの向上が主目的

  • 長期的には、再入院の減少や生命予後の改善にもつながる

推奨される運動の基本

推奨内容 解説
有酸素運動(歩行・自転車)      週3〜5回、20〜60分
運動強度 AT以下、中等度(Borg 11〜13)
禁忌 急性増悪期(バイタル・BNP・体重変化に注意)
モニタリング 運動前に体重・浮腫を確認

運動処方の3ステップ

  1. 安定状態の確認BNP・体重変動・症状の安定)

  2. 評価から目標設定(6分間歩行、簡易エルゴ、最大心拍数60〜70%)

  3. 実施中モニタリング(SpO₂・心拍数・Borg・顔色・浮腫・トークテスト)

注意が必要なケース

  • 安静時心拍数が100超または40未満 → 

    • 安静時心拍数 40 bpm 以下:徐脈による血行動態や運動耐容能力の低下が懸念されるため、慎重な評価が必要

    • 安静時心拍数 100 bpm 以上:過負荷や不整脈を伴う可能性があるため、状態安定化が優先

  • ST変化や新規不整脈 → 運動中に ST 降下が生じた(例:6MET以下で虚血性 ST 低下がある場合)、非持続性心室頻拍(NSVT)などは 危険な徴候とされ、安全な運動実施には 継続的なモニタリングと医師の判断が必要とされています

  • BNP(心臓性ナトリウム利尿ペプチド)上昇や浮腫悪化 →BNPの明らかな上昇と浮腫悪化(または体重急増)がある場合は、まずは安静と病態安定化を優先 

筋トレはしてもよい?

  • ガイドラインでも「有酸素運動+軽度筋トレの併用」が推奨

  • 高強度は避け、椅子での下肢挙上や軽負荷のレジスタンスバンドから始め、漸進的に導入していくのが安全

 

 

臨床で活かす心不全患者への運動療法 ~ チェックリストと症例から学ぶ実践~

 心不全患者に対する運動療法は、ガイドライン上の推奨を“そのまま”適用するだけでは不十分です。実際の現場では、患者ごとに心機能・合併症・生活背景が大きく異なり、マニュアル通りの処方が必ずしもフィットするわけではありません。
本稿では、患者指導に使えるチェックリスト実際の症例をベースとした運動処方の工夫を紹介し、日常臨床に即した視点で解説していきます。

 

1.患者指導用チェックリスト

 まずは患者自身が「安全に運動を継続できるか」をセルフチェックできることが重要です。再入院予防には、医療者が監視するだけでなく、患者自身が“危険のサイン”を見抜く力を育てる必要があります。

<運動前チェック>

□ 今日の体重は昨日と比べて±2kg以内か

□ 足や手にむくみは悪化していないか

□ 息切れや強い倦怠感はないか

□ 胸部の圧迫感や動悸はないか

<運動中チェック>

□ 会話できる程度の余裕があるか(トークテスト)

□ Borgスケール「11〜13(楽〜ややきつい)」の範囲に収まっているか

□ めまい・冷汗・胸痛などが出ていないか

<運動後チェック>

□ 強い疲労感が残っていないか

□ 心拍や呼吸が数分以内に落ち着いてきているか

□ 翌日に体調の大きな悪化がないか

これを紙ベースやアプリにして「運動日記」として残すことで、次回の診察やリハ介入時に客観的データとして活用できる

 

2.症例ベースでの実践ポイント

症例①:HFrEF 70歳男性(駆出率30%、退院直後)

  • 背景:安静時は症状なし。歩行で息切れあり、階段は休憩が必要。利尿剤で浮腫は軽快

  • 処方例

    • 歩行10分を1日2回(休憩は自由)

    • 心拍数は最大予測心拍の60%を上限に

    • Borgスケールで「11」程度を目標

  • 工夫:数値管理よりも、「昨日より少し長く歩けたらOK」という成功体験を重視→患者本人に「できる感覚」を積ませることが継続の鍵

 

症例②:HFpEF 75歳女性(駆出率55%、肥満・糖尿病あり)

  • 背景:心機能は保たれているが、肥満と下肢筋力低下のため、椅子からの立ち上がりが困難。外出は買い物程度。

  • 処方例

    • 椅子からの立ち上がり10回×3セット

    • 軽い下肢バンド運動(大腿四頭筋・殿筋)

    • 歩行15分、週4回

  • 工夫:「トレーニング」というより、「生活にプラスする動き」として提案。買い物帰りに一駅歩く、階段を一段多く昇る、など日常動作に紐づけて習慣化を狙う

 

症例③:HFimpEF 68歳男性(駆出率改善 25%→50%)

  • 背景:LVEFが改善し活動性は戻りつつあるが、「再発が怖い」という心理的不安で活動量が少ない

  • 処方例

    • 自転車エルゴ10分(Borg 12まで)

    • 上肢の軽いレジスタンス運動(セラバンドで肩・肘屈伸)

    • 階段1フロア昇降を日課に追加

  • 工夫:改善後も再増悪リスクがあることを説明し、体重・むくみ・息切れの自己チェックを徹底指導→心理的不安を和らげるために「軽い運動はむしろ心臓を守る」ことを強調

 

3.現場でのよくある課題と解決策

①「患者が怖がって運動を避ける」
→ 小さな目標を提示し、「できた体験」を積み重ねることで不安を軽減

②「医療者間で運動強度の基準が統一されない」
→ Borgスケールやトークテストなど、誰でも評価できる共通ツールを使用

③「退院後に運動が継続しない」
→ チェックリストや日記を持たせ、家族や訪問看護と共有する体制をつくる

 

4.有酸素+軽度筋トレの実践的導入法

 ガイドラインでも推奨されている「有酸素+軽度レジスタンストレーニング

  • 有酸素運動:歩行、自転車エルゴ。最初は10〜15分から始め、20〜40分まで漸進

  • 筋力トレーニン:大筋群(下肢体幹優先)中心に自重または軽負荷で週2〜3回

  • 実践例:椅子立ち上がり→階段昇降→ゴムバンド運動の流れで、漸進的に強度を上げる

 

持久力とADL能力向上のために、有酸素運動と筋力トレーニングの両方を取り入れることが重要です

まとめ

  • 患者自身が安全確認を習慣化することが、再入院予防に直結する

  • HFrEF・HFpEF・HFimpEFそれぞれの特徴に応じた処方が可能になる

  • 「数値管理」だけでなく、「生活に溶け込む工夫」「小さな成功体験」を重視することで、運動療法の継続率を高められる

  • ガイドラインは道標であり、現場では“患者ごとに調整した運動処方”が最も重要

本日はここまでとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。