本日もご覧いただきありがとうございます。本日のテーマは腰痛の中でもみらえる仙腸関節(SI関節)障害についてです。
腰痛や骨盤周囲痛を訴える患者さんのなかで、仙腸関節が原因となる割合は15〜25%とも言われています(Cohen 2005, Vanelderen 2010)。
しかし、仙腸関節障害は腰椎椎間板障害や股関節疾患と症状が似ているため、見逃されやすいのも事実です。
本記事では、療法士が臨床で活かせる 仙腸関節の評価と治療戦略を、症例ケースを交えて解説します。
仙腸関節の役割と特徴
仙腸関節は仙骨と腸骨をつなぐ半関節で、前方は滑膜関節、後方は靭帯結合から成ります(Forst 2006)。
可動域はわずかに 1〜2mm、角度にして1〜2°程度ですが、この小さな動きが荷重伝達や衝撃吸収に重要です。
動きすぎても、動かなすぎても問題となり、腰痛や殿部痛の原因になります。
鑑別に役立つ疼痛の特徴
仙腸関節障害の特徴的な痛みの訴えは、「指一本で示せる」PSIS直上の局所痛です(Cohen 2005)。
放散は殿部〜鼠径部や大腿後外側に及びますが、膝下までは広がらないのが典型的です(Vanelderen 2010)。
これを知っておくと、坐骨神経痛(足先まで広がる)や股関節障害(可動域制限を伴う)と鑑別しやすくなります。
鑑別診断に必須の誘発テスト
・FABER(Patrick test):股関節外旋・外転位で仙腸関節や股関節にストレスをかける。殿部〜仙腸関節に痛みが出れば陽性。
・Gaenslen test:一側股関節屈曲+反対側股関節伸展で骨盤に剪断ストレスを与える。
・Distraction(離開 test):仰臥位で両上前腸骨棘を外方向へ圧迫し、仙腸関節前部にストレスをかける。
・Compression(圧迫 test):側臥位で腸骨を圧迫し、仙腸関節後部にストレスをかける。
・Thigh Thrust test:仰臥位で股関節90°屈曲、軸圧を加えて仙腸関節に剪断力を与える。
➡ 5項目中3つ以上陽性で感度91%・特異度78%(Laslett 2005)。臨床での鑑別に有用。
症例ケース
患者:45歳女性(保育士、産後2年)
主訴:右殿部〜鼠径部の痛み。片脚立ち・長時間立位で悪化。
評価:疼痛は右PSIS直上。放散は大腿後外側(膝下なし)。仰臥位で患側を下にできない。
誘発テスト:
FABER・Gaenslen・Thigh Thrust陽性、Compression/Distraction陰性
→ Laslett基準クリア。
解釈:産後の靭帯弛緩+保育業務による骨盤ストレス → 仙腸関節不安定性。二次的に殿筋群の過緊張を伴う。
💡 治療の方向性
徒手療法:梨状筋・仙結節靭帯リリース、軽度モビライゼーション、METによる骨盤調整。
運動療法:腹横筋・多裂筋の収縮、骨盤底筋賦活、中殿筋・大殿筋強化(クラムシェル・ヒップリフト)、股関節と体幹の協調。
補助具:骨盤ベルト(急性期や不安定感が強い場面に限定)。
生活指導:片脚荷重や中腰を避け、抱っこ動作は左右交互に。
まとめ
仙腸関節障害は「動かない関節」ではなく、動きすぎても・動かなすぎても痛みの原因となる関節です。
鑑別には複数の疼痛誘発テストが有効で、日常的に腰痛をみる臨床家にとって重要な視点となります。
治療は 徒手療法・安定化エクササイズ・生活指導を組み合わせることが効果的です。
患者さんには「骨盤がズレている」と伝えるのではなく、「安定性が低下している」と説明することで、不安を和らげ、リハビリへの積極的な参加につながります。
※注意点
・テスト結果はあくまでスクリーニングであり、他の評価や画像所見も合わせて考える
・坐骨神経痛や椎間関節障害など、類似する腰痛との鑑別を常に意識すること
・徒手療法は矯正ではなく、疼痛軽減と安定性の回復を目的に行うこと
・骨盤ベルトは常用せず、不安定感が強い場面や時期に限定して使うこと
・安定化エクササイズは呼吸や日常動作とつなげて行うこと
「仙腸関節かもしれない」という視点を持つことが、腰痛治療の幅を広げる第一歩になります。
本日の内容はここまでとなります。最後までご覧いただきありがとうございました。
参考文献
1.Cohen SP. Sacroiliac joint pain: a comprehensive review of anatomy, diagnosis, and treatment. Anesth Analg. 2005.
(仙腸関節痛:解剖・診断・治療に関する総合的レビュー)
2.Vanelderen P, et al. Sacral pain syndrome. Pain Physician. 2010.
(仙骨痛症候群)
3.Forst SL, et al. The sacroiliac joint: anatomy, physiology and clinical significance. Pain Physician. 2006.
(仙腸関節:解剖、生理、臨床的意義)
4.Laslett M, et al. Diagnosis of sacroiliac joint pain: validity of individual provocation tests and composites of tests. Man Ther. 2005.
(仙腸関節痛の診断:個々の誘発テストおよびテスト群の妥当性)